Chapter 1 「ゆー・いー」


「どうぞ」
「ありがとう」

マタンは開けられたドアからゆっくりと車を降りた。
外装はは西洋風の屋敷であり食事もそうなのだが、大きな日本庭園を兼備しているのが売りのレストランだ。もちろん彼女の父の会社の傘下の店である。

「ようこそいらっしゃいました」

マタンが車を降りるのと同時に、金色のノブがついた大きな白いドアの前に控えていたスーツの男が出て深くお辞儀をした。

「会長のお嬢様にこの店をお使いいただけるなんて、光栄です」
「ありがとう、私もこんな素敵なお店に来られて嬉しいわ」
「それはそれは恐れ入ります」

挨拶は軽く済ませ、店の中へ。
赤い絨毯の敷かれた廊下を歩む。歩くたびにペチコートで膨らませたドラジェブルーのドレスが揺れる。胸元のリボンがシンプルな作りのドレスに映えていて、それに金色のストールを合わせ、白地にドレスと同じ色のリボンが付いているヒール、髪にはいつもの青いダリアの花飾り。彼女の清廉さを際立たせるコーディネートと言えるだろう。

「こちらです」

通された部屋は中世ヨーロッパのダイニングルームのような部屋だった。
壁には暖炉があり、その上には燭台などが置かれていて、反対側に大きな窓がある。
窓からは空の水色に紙吹雪みたいな薄桃色が見える。桜はちょうど満開のようだった。

「後でお庭が見たいわ」
「ぜひ。桜がとても綺麗ですよ」

支配人が椅子を引きながら答える。マタンは促されるまま引かれた椅子に腰を降ろした。

「申し訳ありませんが、こちらで少々お待ちください」

支配人は扉の前で一礼すると赤い絨毯の廊下へと消えた。
それを確認すると、今度は目を側に控えている男に移す。

「今何時かしら?」
「15時45分です」

さっとスーツの裾を触るようにずらして現れた高級感のあふれている腕時計に一瞥をくれるとファロは答えた。

「待ちましょう」
「はい」

しかし、何もすることがないマタンは退屈を紛らわすために窓の外に視線を巡らせた。桜の花びらが雨のように辺り一面で舞っている。

「ねぇ、ファロ」
「はい」
「お庭を見てきてもいいかしら?」
「後ほどお相手の方とご一緒に見に行かれたらいかがでしょう?」

今ここで逃げられたら…と思うと自分のこめかみに冷たい汗が流れそうになるので、ファロはなんとしてでもここはマタンに部屋に残ってもらわなくてはいけないことをひしひしと感じていた。

「でもまだ時間はあるのよね」
「…ええ、まあ」

わずかだが、時間はある。忠実な側近は主人に嘘をつけなかった。

「それなら行ってくるわ」
「マ、マタンさま!?」

ファロの制止も聞かないうちにマタンははじけるように席を立ち、そのまま部屋を出て行ってしまった。

ぱたん、と音を立て無情に閉まった扉を見てファロは頭を抱えた。


***


――やっぱりお部屋から見るより綺麗ね。


マタンは一人になることができた開放感をかみしめるように心の中で呟いた。
ひらひらと舞う花びらは時折その頬を撫でていく。


でもなんだか場違いな気分だわ……。


石畳の道に、石灯籠、竹垣の向こうには庭石の配置された池。ときおり水琴窟がその名の通りこの庭園にぴったりの音を奏でている。まさしく純和風と言える佇まいに、西洋のアーモンド菓子という意味の色の洋服を着ている自分は明らかに浮いていた。


まあ居心地が悪くてもいいわ、きっとこれからもっと悪くなるのだから……。


自分に言い聞かせると、さらに歩を進める。するとすぐに大きな池が見えてきた。
先ほどから風は凪いでいるので、ぴんと張った水面は鏡のように辺りを映している。

「鯉だわ」

水面に浮かんだ桜の花びらを掻き混ぜるように泳いでいる鯉は赤や白、黒や金色のものまでいる。
池の縁まで近寄ると、餌をねだる様に大きな口をぱくぱくと動かした。

「餌はないのよ、ごめんなさいね」

と言っても鯉たちがわかるはずもなく、口を動かすことを止めない。見ていてかわいそうになってきたので、マタンはその場を離れ、先を急ぐ。


そろそろ戻らないといけないような気がするけれど……。


まあいいわ、と自己解決させ、池沿いの道を進んでいくと長い石段が見えてきた。どうやら高いところから庭を一望できるらしい。

「お寺みたいね」

以前行った寺にもこのような展望台があったことを思い出す。
その時もそうだったように見上げた石段の長さに少しだけ躊躇したが、一段目に足をかけ、上りはじめた。思っていたより段が急であるのと、ヒールを履いていることが相まって上に近づくほど息が荒くなっていく。しかし、右側に視線を移すと桜を浮かべた池と周りの木々がとても美しい景色をつくっていて、それを見てるだけで少しだけ疲れを忘れられた。

「あと少しよ……」

一段、また一段。
やがて見上げた先に桜色が見えてきた。終わりは近い。
一段、そして、一段。
最後の段から足を離し、視線を上に戻した、その時、

「えっ……」

マタンは言葉を失った。


今のは…?


そのとき、失った言葉を戻すように強く風が吹いた。巻き上げられた花びらの嵐に思わず目を閉じる。
そして再び瞼が開くとき、きっと自分が見たものは幻だったと思える、と自分に言い聞かせてそろそろと目を開けた。

しかし、幻でもなんでもなく、


そこには自分と同じ顔をした男の子がいた。


*****

あとがき


前回言い忘れていたことがあるのですが、

舞台は日本です><!!

どうして日本なのかは追ってわかるでしょう…!
二人が日本にいることに違和感がある方はもう読まない方がいいかもしれません;


話は変わりますが、いろみほんを眺めるのって素敵ですよね。
色のなまえって綺麗な響きばっかりで、むずむずします!
ちなみにドラジェブルーはこんないろ
公式のマタンのドレスの色っぽいのを選んでみました!


とりあえずやっと書いてて楽しくなりそうです。
ノクマタいっぱい絡ませます、この話ではノクスが大人なかんじめざしますのでw


そういえばノクスってポップンのGOODアクションで目がおっかなくなりますよね。
おっかなくても好きだー><
姉のが好きだけどー!!!

なんかごたごたなあとがきですみません;

(09/05/05)